大阪大学理学部→京大医学部に仮面浪人で合格したK.Tさんインタビュー

K.Tさんのプロフィール

出身地 大阪府
学歴 大阪府立大手前高校→1年間浪人(宅浪)→大阪大学理学部生命科学科→京都大学医学部医学科(現在4年)
現在の動向 臨床実習中
仮面浪人形態 前大学と両立して勉強していた
予備校 通っていない
アルバイト 引越しのバイト(前期のみ不定期で)
サークル 海外インターンシップサークル(10月まで)

自分が本当にしたい研究に気付き仮面浪人を決意

Kさんは現在、医学部医学科に在籍中ですが、もともと医学部を志望していたのですか?

はい。私は現役時代から大学では再生医療の研究がしたいと思っており、医学部を志望していました。その中でも特に再生医療研究に強い京都大学(以下、京大)の医学部を目指しており、現役時、1浪時、仮面浪人時の計3回受験しました。

Kさんは大阪大学(以下、阪大)へ1浪後に進学された後、仮面浪人を経て京大医学部に進学されています。初めに阪大に進学した理由は何ですか?

二つの意味での「保険のため」ですね。
一つ目は「2浪のリスクへの保険」です。
現役時と同じく1浪時の前期試験も京大医学部を受験したのですが落ちてしまい、後期試験で阪大に合格しました。その際に2浪するということも考えたのですが、もし2浪してまた落ちてしまった時の代償はさすがに大きすぎると思い、阪大に進学することにしました。

二つ目は「医学研究ができることへの保険」です。
後期で他の医学部を受験するという選択肢もあったのですが、私は「医者になりたい!」というよりは広い意味で「医学研究がしたい!」と思っていました。なので後期はその研究が出来ない地方国公立大の医学部ではなく、私がやりたかった医学研究のできる阪大の理学部生命科学科を受験しました。

実は、その時に防衛医科大学(以下、防衛医大)にも合格していたのですが、防衛医大だと卒業後しばらく働かないといけないので医者にはなれるけど研究はできません。(*防衛医大は卒業後9年以内に自衛隊を退官する場合には大学卒業までの費用約5000万円を国庫に返納しなければならない)

なので当時の私には①「2浪して京大医学部を目指す」②「防衛医大に進学」③「阪大に進学」の3つの選択肢がありましたが、2浪はリスクが大きすぎること、医者になりたいというよりは医学研究がしたいことを踏まえた結果、2浪のリスクを避けて、なおかつ医者としての道がダメでも医学研究ができる③「阪大に進学」という選択肢を選ぶことにしました。

では、阪大進学後そのまま阪大で医学研究をするという道もあったと思うのですが、仮面浪人を決意したのは何故ですか?

それは医学部を目指した元々の動機によるものです。高校の時から再生医療の研究をやりたいと思っており、その研究の中にも基礎研究と臨床研究の二つがあります。基礎研究が理学部、臨床研究が病院でやっているものです。私はその二つの間に立って、それをつなげたいと思っていました。基礎研究のことを臨床研究に応用したいということです。

しかし、その基礎研究と臨床研究の間の中にも幅があって、基礎研究寄りであれば理学部でもいいのですが、自分は患者さんの顔を直接見ることができる臨床研究寄りに立ちたいという想いをずっと持っていました。単純ではあるのですが、その理由は自分の研究が患者さんに反映されて患者さんが喜ぶ顔が直接見たいという根本的な欲求からです。基礎研究のものを臨床研究に持っていく途中に携わりたいというよりかは「基礎研究で出来上がりつつあるもの実際に臨床研究の場で応用していく」ということがやりたかったのです。
基礎寄り(理学部)と臨床寄り(医学部)で迷っていましたが、その元の想いを思い出して臨床寄りに進もう、そのために京大医学部を受験し直そうと決意しました。

ですので、どうしても医者になりたかった、偏差値ランキングで高いところに行きたかったというよりは、基礎研究と臨床研究の2つの並列した選択肢を検討した結果、自分のやりたいことにより近い臨床側の医学部を選んだという感じですね。

仮面浪人を決意したのはいつですか?

京大に落ちてから阪大の入学手続きをするまでの3月末の2週間くらいの間です。理由は大きく二つあって、一つは先ほど述べた臨床側の研究がしたいという本当の想いが自分の心の中で整理できたからです。
もう一つは、私の高校の部活の先輩で仮面浪人を成功させた人がいたというのが大きかったです。その先輩は同志社大学から京大に仮面浪人を成功させており、その人に仮面浪人について相談をして仮面浪人に現実味を感じることができたのが意思決定の大きな要因になりました。
もしその先輩がいなかったら仮面浪人に現実味を感じることができず、防衛医大に行くか、2浪して前期は京大医学部、後期に地方の医学部を受験していた可能性が高かったと思います。

親御さんは仮面浪人についてどのような反応をされましたか?

両親には一浪時に京大に落ちて阪大の入学手続きをする2週間の間に話しました。父は再生医療が研究したいのなら京大医学部の方がいいだろうと言って賛成してくれたので、そういう意味では非常に恵まれていましたね。

時間の無い中、淡々とこなした仮面浪人生活

阪大入学前から仮面浪人を決意されていましたが、阪大での学生生活はどのようなものでしたか?

私は授業も出て、サークルやバイトもしていました。
自分の中で進級しないという選択肢はなかったのできちんと阪大の授業に出席していましたね。前期は20コマ、後期10コマくらいです。普通に単位は取ることにしていました。
また、新歓も普通に行って海外インターンシップサークルに入っていました。10月に大きなプロジェクトがあったのですがそれが終わるまで活動に参加していました。
バイトに関しては、受験費用は自分で稼ごうと思い、空いている休日に短期バイトをしていました。

そのような大学生活を送っていると受験勉強をする時間があまり取れないような気がするのですが、どのような仮面浪人生活を送っていたのですか?

私は受験勉強を開始するのが遅くて、本格的に勉強を始めたのは10月半ばくらいからでした。
前期は授業とサークルなど普通の大学生をしていました。たまに勉強もしていたのですが、単語帳をパラパラ見たり、数学の問題集を見て「ああ、こんなのあったな…」と軽く確認する程度でしたね。
夏休みもサークル活動や友達と遊ぶことが多くて、前期よりは勉強していたのですがそれでも月20時間ほどで、一日1時間勉強するかしないかくらいでした。

夏休みに受けた京大模試も成績があまり良くなかったのでヤバいと思ったのですが、10月にある大きなプロジェクトの関係でサークル活動が忙しかったため、真剣に受験勉強に取り組めるようになったのはそのプロジェクトが終わった10月中旬からでした。

仮面浪人で志望校を目指す上で、そのように勉強開始時期が遅く、しかも予備校にも行っていなかったということですが、受験に対して不安にはならなかったのですか?

正直、不安はそこまでありませんでした。私はあんまり受験を真面目に捉えられない性格だったのか、「自分なら合格するであろう」という自信も、逆に「落ちるかもしれない」という恐怖感もそこまで感じませんでした。

また、予備校に関しては、初めから絶対に行かないと決めていました。というのも、私はもともと予備校の先生の話し方があまり好きではなく、それを小中高とずっと感じていたからです。なので、一浪時から予備校に行かず独学で勉強していました。そして、その宅浪での独学経験から自分のマネジメント能力には自信があったので、予備校にはいかなくても不安になることはありませんでしたね。

ただ、私が普通の仮面浪人生と少し違うのかなと思うのは、阪大の先生に受験勉強を見てもらっていたことです。というのも、私は阪大の一般教養の授業で英作文の授業を取っていて、その先生に英作文を添削してもらっていました。その先生に英作文を見てもらっていたのは非常に大きかったですね。

仮面浪人を友人たちに打ち明けたりはしましたか?

私は学科やサークルの友達など周りの友人にすごく話しましたね。4月頃に「実は…」みたいな感じで話したら、意外とみんな理解して応援してくれました。
一番初めに話したのは学科の友人なのですが、うちの学科は定員の20/25人が前期に第一志望を落ちた後期入学者で、打ち明けた彼も第一志望落ちだったので共感してくれました。ちなみに、彼は三年次編入で阪大理学部から京大に行きました。

次に、別の学科の友人に話したらはじめは驚いていましたが、同じ研究ベースで将来は研究者志望同士ということで打ち解けました。再生医療に関して彼は理学部からアプローチ、自分は医学部からアプローチをしよう!ということで理解を示してくれましたね。そして、彼から周りの学科の子にも話してくれたみたいで、学校で気まずくなるということもなかったです。

またサークルに関しても、みな受け入れてくれて、大きなプロジェクトが終わって10月に「受験勉強を本格的にするから」といってサークルを休会した後も、サークルの仲間が定期的に飲み会を開いてくれて励ましてくれました。

なので、もちろん中には快く思っていない人もいたかもしれませんが、僕は比較的、周りの友人たちには恵まれていたと思います。

仮面浪人中に辛かったことはありますか?

正直、仮面浪人がそんなに辛いと思ったことはなかったですね。
前期から夏休みまでサークルなどを思いっきり楽しんだので、仮面浪人を始めてからの大学生活に対する誘惑も無かったですし、実質2浪目という点に関してもそこまで恐怖心はなかったです。割りと淡々と受験勉強をしていましたね。

その理由としては、仮に落ちたとしても阪大で自分がやりたい分野に近い研究ができるという実際的な問題というよりかは「なるようになるかな」という気持ちからでした。その頃に初めて勉強って面白いなと思うようになって、これで受かる/落ちるという現実的なことはあんまり考えなかったです。なんでその心境になったのかは今でも分からないですが…。

では、仮面浪人生に多い「孤独で辛かった」ということもなかったのですか?

孤独を感じることはそんなになかったですね。確かに大学の友人たちと置かれている状況は違いましたが、それぞれが自分のすべきことをしていると思っていました。大学生として「サークルに取り組む、研究に没頭する、バイトを頑張る、インターンに行く」など様々な選択肢がある中で、友人たちはそれらに取り組み、私はその中の選択肢の一つとして受験勉強に取り組んでいるんだ、と考えていましたね。

もちろん、ふとした瞬間に「今頃みんな飲み会か…」などと寂しくなる時もありましたが、「一人で受験勉強をしていて孤独で辛い」と慢性的に感じることはなかったです。

そのような中勉強されていて、受験結果はどうでしたか?

まず、受験校に関しては前期に京大医学部を受験して、後期は広島大学医学部に出願しました。私大医学部は受験しなかったのですが、その理由は二つあって、一つ目は経済的な事情で、もう一つは、私が理学研究の道に進もうと思っていたからです。私大だと、どうしても自分のやりたい研究ができないので…。
結果は、何とか前期で京大医学部に合格することができました。この時は本当に嬉しかったですね。

合格後、周りの反応はどうでしたか?

周りもとても喜んでくれましたし、両親もすごく祝福してくれました。また、大学の友人たちも皆お祝いしてくれました。一番最初に相談した友人は「おめでとう。僕も形は違うけど後に続くよ。」と言ってくれましたね。

偏差値による直列した価値観から並列の価値観に

京大に来て学生生活に変化はありましたか?

京大に入学して初めの頃は「ついにやってやったぞ!」みたいな自信もありましたが、そういう自信はすぐに無くなりました。というのも、京大医学部に入ってみると真面目で非常に優秀な人は多いし、逆に一見賢くなさそうに見えるのに天才的に頭の良い人もたくさんいたからです(笑)。
これは決して卑下しているわけではなく、こんなに多様で優秀な人が多い中で勉強できるのは、刺激も多くて自分にとって非常にいい環境だと思っています。

研究の違いについては、阪大ではまだそこまで詳しく研究をしていなかったので京大との比較は難しいですが、一般論で言うと阪大も研究は強いので、阪大のままでもよかったのかなとは思います。
ただ、大学の雰囲気は全然違いますね。阪大は勤勉な学校、京大は自由で変人が多いです(笑)。雰囲気としては京大の方が私にあっているとは思いますが、阪大も好きだったし、私に合う部分もあり懐かしさすら感じます。

なので、京大に来てからしばらくは「自分は阪大生」という意識がありました。ちょっと京大の子とはキャラが違うみたいな感じです。そんなものはすぐになくなりましたけどね。でも今でも阪大には思い入れが強く、自分の出身校は阪大だという意識です。感覚としては、学部で阪大に通って、院で京大に来たみたいな感じです。今の自分の土台は阪大だと思っています。

仮面浪人の経験を通して価値観の変化はありましたか?

一番の大きな変化は、学歴コンプレックスが無くなりました。正確に言えばコンプレックスが無くなったというよりは「コンプレックスを感じる必要が無いのだと気付いた」という感じですね。

当たり前ですが、大学入学前は大学生活を知らなくて、どうしても受験勉強をしていると偏差値の優劣だけで物事を考えていました。
しかし、友人は純粋に理学部が好きで研究志望だったことや、海外インターンサークルの人たちと関わって多様な価値観に触れることで、「偏差値の優劣じゃない」と当たり前のことに気付き、そう素直に思えるようになりました。

そして、自分には「理学部で研究者になる」、「医学部で医者になる」という2つの道があって、それを優劣ではなく並列した選択肢として考えられるようになったのかなと思います。
今までは偏差値の上下の直列した価値観だったのが、数ある選択肢の一つという並列した価値観になりました。この価値観の変化は自分にとって非常に大きかったです。

最後に後輩へのアドバイスをお願いします。

自分が本当にやりたいことを考えるべきだと思います。例えば、何がしたくて医学部に行きたいのかなどですね。あとは、前大学を選んだ理由もあると思うので、なぜそこを選択したのかということを考えるべきだと思います。それらを踏まえた上で、どうしても自分のしたいことが前大学では出来ないのであれば仮面浪人もありだと思います。

医学部保健学科の友人で、仮面浪人をして地方大学の医学部医学科に進んだ人がいます。僕は医学科でも保健学科でもどっちでも良いのではないかと思っていたのですが、その人自身は作業療法士ではなく医者として患者さんと接したいという想いがあったみたいです。
なので、その人を見ていると本当にやりたいことがあったら成功するんだなと思いました。

逆に、知り合いに薬学部から仮面浪人をして医学部を目指している人がいます。でもその人は仮面浪人を2年やっても失敗して現在も薬学部で仮面浪人をしています。その人の場合は将来、生命倫理に関する研究がしたいと言っているのですが、それは医学部じゃなくてもできます。彼が医学部を目指しているのは医者である両親の影響が強くて、周りの影響を受けてしまっているのです。
その人の意思ではない、本質的に医学部にどうしても行きたいというわけではないので勉強にも熱が入らず、なかなか上手くいかないのかなと思います。

なので、本気の人はやって受かると思うし、そういう本質的な欲求でない人はやっぱり勉強に身が入らないように思うので、もう一度よく自分が本当にしたいことは何かよく考えてから仮面浪人をするかどうかの決断をした方がいいと思います。

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